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生成AI学習データに関する訴訟事例:類型別分析と法的課題

  • tokuhata
  • 3月27日
  • 読了時間: 25分



1. エグゼクティブサマリー

 近年、テキスト、画像、動画、音声といった多様なメディアを生成するAI技術が急速に進展し、その学習に用いられる著作物の法的扱いに注目が集まっています。特に、著作権者による権利侵害の主張と、AI開発者によるフェアユースの抗弁を軸とした訴訟が世界各地で増加しています。本稿では、主要な訴訟事例を生成AIのタイプ別に分類し、その概要、争点、判決(判明している場合)を分析します。これらの事例を通じて、生成AIの学習データに関する著作権や利用規約を巡る共通の法的課題と今後の展望を考察します。主要な訴訟事例としては、テキスト生成AIではKadrey対Meta訴訟、OpenAI ChatGPT訴訟、ニューヨーク・タイムズ対Microsoft・OpenAI訴訟、トムソン・ロイター対Ross Intelligence訴訟などが挙げられます。画像生成AIでは、アンダーセン対Stability AI訴訟、ゲッティイメージズ対Stability AI訴訟などが注目されています。音声生成AIでは、UMGレコーディングス対Suno訴訟、UMGレコーディングス対Uncharted Labs (Udio)訴訟、Vacker対Eleven Labs訴訟などが進行中です。これらの訴訟は、AI開発における著作物の利用範囲や、生成されたコンテンツの著作権の帰属など、AI技術の発展と著作権法の調和を図る上で重要な意味を持つと考えられます。


2. はじめに


2.1 生成AIの急速な普及

 近年、人工知能(AI)技術は目覚ましい発展を遂げ、特にテキスト、画像、動画、音声などのコンテンツを自律的に生成する「生成AI」が社会の様々な領域で急速に普及しています。これらの技術は、コンテンツ制作の効率化、新たな表現方法の創出、ビジネスモデルの変革など、多岐にわたる可能性を秘めています。


2.2 学習データの重要性

 生成AIモデルは、大量の既存データを用いて学習することで、人間が作成するような自然で多様なコンテンツを生成する能力を獲得します。この学習データには、書籍、記事、画像、動画、音楽など、著作権によって保護されている作品が多数含まれています。学習データの質と量が、生成AIの性能を大きく左右するため、著作物の利用は生成AI開発において不可欠な要素となっています。


2.3 AIと著作権法の交錯

 生成AIの学習における著作物の利用は、著作権法との間に潜在的な衝突を生み出しています。著作権法は、著作物の複製、翻案、公衆送信などの行為について、原則として著作権者の許諾を必要とします。一方、AI開発者は、学習データの利用は著作権法上の権利制限規定である「フェアユース」などに該当すると主張することがあります。しかし、AI技術の発展は既存の著作権法の枠組みが想定していなかった事態を引き起こしており、その解釈と適用を巡って多くの議論と訴訟が提起されています。


2.4 本稿の目的と範囲

 本稿では、生成AIの学習データに関する主要な訴訟事例を調査し、生成AIのタイプ別に分類して解説します。各事例について、訴訟の概要、争点、判決(判明している場合)を特定し、それらの分析を通じて、この分野における法的課題と今後の動向を明らかにすることを目的とします。本稿の範囲は、主に著作権侵害を争点とする訴訟に焦点を当て、テキスト、画像、動画、音声生成AIの学習データを巡る代表的な事例を取り上げます。



3. テキスト生成AIの学習データに関する訴訟事例


3.1 事例1:Kadrey et al. v. Meta

概要: 作家のリチャード・カドリー氏やコメディアンのシルバーマン氏を含む複数の原告が、Meta社(代表:マーク・ザッカーバーグ氏)に対して著作権侵害訴訟を提起しました。原告らは、Meta社の生成AIモデルであるLLaMAのトレーニングにおいて、原告自身の著作物を含む数百万点もの著作物が無許諾で使用されたと主張しています。Meta社はこれに対し、「フェアユース」を抗弁としています 1。

争点: 生成AIモデルのトレーニングにおける大量の著作物の無許諾利用が著作権侵害に当たるか、またフェアユースが成立するかどうかが主な争点です。

結果(判明している場合): 2023年11月、裁判所は原告の主張の大部分を棄却しましたが、より直接的な損害との関連性を示すために訴状の修正を認めています。2025年1月21日、裁判所は原告によるさらなる証拠開示の延長要求を拒否し、Meta社の提案した訴訟スケジュールを支持しました。これにより、原告は現在保有している証拠に基づいて新たな主張を立証する必要があります 1。

考察: この訴訟は、主要なAI開発企業に対する著作権侵害訴訟の典型的な例であり、著作権者による大規模な侵害主張と、AI企業によるフェアユース抗弁という構図を示しています。初期の請求棄却と修正の許可は、裁判所が原告の具体的な損害立証を重視していることを示唆しています。


3.2 事例2:In re OpenAI ChatGPT Litigation(Tremblay v. OpenAI, Inc. および Silverman v. OpenAI, Inc. を含む)

概要: 作家のポール・トレムブレイ氏やコメディアンのシルバーマン氏らを含む複数の原告が、OpenAI社に対して著作権侵害、不正競争などの訴訟を提起しました。原告らは、OpenAI社のAIチャットボットであるChatGPTのトレーニングに、自身の著作物が無許諾で使用されたと主張しています 1。

争点: AIトレーニングにおける著作物の利用が直接的な著作権侵害に当たるか、またChatGPTの生成するコンテンツ(出力)が原告の著作物と実質的に類似しているか(当初の争点)、トレーニングデータの開示範囲などが争点となっています。

結果(判明している場合): 当初、裁判所はChatGPTの出力が原告の著作物と「実質的に類似していない」として、著作権侵害の主張の大部分を棄却しました。しかし、トレーニングデータに関する直接侵害の主張は残っており、重要な進展として、裁判所はOpenAI社に対し、GPT-4のトレーニングに使用された「English Colang Dataset」の完全な開示を命じました 1。

考察: この訴訟では、AIの生成するコンテンツとトレーニングデータの法的区別が示唆されています。出力の類似性による侵害が否定された一方で、トレーニングデータ自体の利用が依然として侵害の可能性を孕んでいる点が重要です。OpenAI社に対するトレーニングデータ開示命令は、今後の同様の訴訟において、原告側が侵害を立証するための重要な手がかりとなる可能性があります。


3.3 事例3:The New York Times Company v. Microsoft Corporation & OpenAI

概要: ニューヨーク・タイムズ社は、Microsoft社とOpenAI社に対し、著作権侵害訴訟を提起しました。同社は、両社がGPTモデルおよびCopilotのトレーニングにおいて、数百万件に及ぶニューヨーク・タイムズ社の著作権で保護された記事を無許諾で使用したと主張し、これにより、ペイウォールで保護されたコンテンツへのアクセスを迂回させ、広告収入に悪影響を与えているとして経済的損害を訴えています 2。

争点: ニュース記事のAIトレーニングへの利用が著作権侵害に当たるか、AIの出力が元の記事と競合または模倣しているとしてフェアユースが否定されるか、などが争点となっています。ニューヨーク・タイムズ社は、巨額の損害賠償と、自社のコンテンツでトレーニングされたモデルの破棄を求めています。

結果(判明している場合): この訴訟は現在も係争中です。Microsoft社とOpenAI社は「フェアユース」を主張し、トレーニングプロセスは変革的であると論じています。一方、ニューヨーク・タイムズ社は、市場の代替となり、著作権を侵害していると反論しています。証拠開示手続きが進んでおり、OpenAI社はニューヨーク・タイムズ社自身のAIツール利用に関する情報の開示を求めています 15。

考察: 大手報道機関によるこの訴訟は、メディア業界におけるAIトレーニングへの著作物利用に対する深刻な懸念を示しています。ニューヨーク・タイムズ社の市場代替性の主張や、モデル破棄の要求は、この問題の重要性を強調しています。被告による原告のAI利用に関する情報開示要求は、フェアユースの抗弁を強化するための戦略と見られます。


3.4 事例4:Thomson Reuters Enterprise Centre GmbH v. Ross Intelligence Inc.

概要: 法情報プラットフォームWestlawの所有者であるトムソン・ロイター社は、Ross Intelligence社に対し、著作権侵害訴訟を提起しました。トムソン・ロイター社は、Ross Intelligence社が自社のAI搭載法律検索エンジンの開発のために、Westlawのヘッドノート(判例の要約)を無許諾でコピーしたと主張しています 2。

争点: 法律ヘッドノートのAIトレーニングへの利用が著作権侵害に当たるか、Ross Intelligence社の「フェアユース」の抗弁が成立するかどうかが争点となりました。特に、Ross Intelligence社のAIが生成AIではなく、既存の判例を出力するツールであった点が重要です。

結果(判明している場合): デラウェア州の連邦地方裁判所は、トムソン・ロイター社に有利な略式判決を下し、Ross Intelligence社が2000件以上のWestlawヘッドノートを侵害したと認定しました。裁判所は、Ross Intelligence社の利用は商業的性質を持ち、トムソン・ロイター社と直接競合するツールを作成するためのものであったため、「フェアユース」は成立しないと判断しました 6。

考察: この判決は、AIトレーニングにおける著作物の利用が違法となる可能性を示した最初の主要な判例の一つとされています。非生成AIに関する事例ではありますが、裁判所が商業的利用と直接的な競合関係を重視した点は、今後の生成AIに関する訴訟においても参考になる可能性があります。裁判所が「非生成AIのみが今日の審理対象である」と明言している点も注目されます 17。


3.5 事例5:Authors Guild v. OpenAI Inc.

概要: 全米作家協会(Authors Guild)は、OpenAI社に対し、作家の著作物をGPTモデル(ChatGPT)のトレーニングに無許諾で使用したとして著作権侵害訴訟を提起しました 3。

争点: この訴訟は、In re OpenAI ChatGPT Litigationと同様に、大規模言語モデルのトレーニングにおける著作権で保護された書籍の無許諾利用が主な争点です。

結果(判明している場合): この訴訟は、Alter v. OpenAI事件として統合されており、現在証拠開示手続きが進められています 3。

考察: 全米作家協会という著名な作家団体が提訴したことは、著作権者側のAIトレーニングに対する強い懸念を示すものです。訴訟の統合は、裁判所が類似の訴訟を効率的に処理しようとしていることを示唆しています。



4. 画像生成AIの学習データに関する訴訟事例


4.1 事例1:Andersen v. Stability AI Ltd.(Midjourney および DeviantArt を含む)

概要: 複数のビジュアルアーティストが、Stability AI社(Stable Diffusionの開発元)、Midjourney社、DeviantArt社に対し、著作権侵害、DMCA違反などの訴訟を提起しました。原告らは、被告らが自身の著作物を含む多数の画像を、Stable Diffusion、Midjourney、DreamUpといったAI画像ジェネレーターのトレーニングに無許諾で使用したと主張しています 2。

争点: 著作権で保護された画像のAIトレーニングへの利用が著作権侵害に当たるか、AIによって生成された「特定のアーティストのスタイル」の画像が著作権侵害となる派生著作物に該当するか、直接侵害および誘発侵害の主張の妥当性などが争点となっています。

結果(判明している場合): 一部の請求は当初棄却されましたが、Stability AI社とMidjourney社に対する直接的および誘発的な著作権侵害の請求は、証拠開示手続きに進むことが認められました。裁判所は、Stable Diffusionが著作権侵害を意図的に促進するように設計されたという原告の主張を合理的であると判断しました。裁判は2027年4月5日に予定されています 3。

考察: この訴訟は、AI開発者が著作権で保護されたコンテンツをトレーニングに使用した場合の潜在的な責任と、ユーザーによる侵害的な出力の作成を可能にした場合の責任の両方を示唆しています。裁判所が「モデル理論」(AIモデル自体が侵害的なコピーを具現化しているという理論)と「配布理論」を認めた点は注目に値します。


4.2 事例2:Getty Images v. Stability AI

概要: ゲッティイメージズ社は、Stability AI社に対し、1200万点以上の著作権で保護された写真をStable Diffusionのトレーニングに無許諾で使用したこと、およびAIが生成した画像にゲッティイメージズ社のウォーターマークを再現する能力があることによる著作権および商標権侵害で提訴しました 2。

争点: 大量の著作権で保護された画像のAIトレーニングへの無許諾利用が著作権侵害に当たるか、ウォーターマークの再現が商標権侵害に当たるか、大規模な著作権侵害請求をどのように管理するかなどが争点となっています。

結果(判明している場合): この訴訟は、米国(デラウェア州)と英国の両方で係争中です。英国では、Stability AI社による訴訟の却下請求は失敗し、裁判に進んでいます。裁判所は、膨大なデータセットにおける侵害の規模をどのように証明するかを検討しています。ゲッティイメージズ社は、米国での訴訟の却下または移送を求めています 3。

考察: 大手ストックフォトエージェンシーによるこの訴訟は、AI画像生成がビジュアルコンテンツのライセンス供与に依存するビジネスモデルに与える商業的影響を浮き彫りにしています。商標権侵害の主張は、法的課題に新たな側面を加えています。異なる法域での並行訴訟は、これらの紛争のグローバルな性質を示しています。


4.3 事例3:Leovy v. Google(In re Google Generative AI Copyright Litigation の一部)

概要: 原告らは、Google社がGemini(旧称Bard)を含むGoogleのAI製品のトレーニングのために、自身の著作物をスクレイピングして使用したことが直接的な著作権侵害に当たると主張しています 3。

争点: 様々な種類の著作物(画像を含む可能性)のGoogleの生成AIモデルのトレーニングへの利用が著作権侵害に当たるかが争点です。

結果(判明している場合): この訴訟は、In re Google Generative AI Copyright Litigationとして統合されており、訴訟の初期段階にあると考えられます 3。

考察: この訴訟は、OpenAIやMeta以外の主要テクノロジー企業も、生成AIモデルに関連して著作権侵害訴訟に直面していることを示しています。統合は、裁判所がこれらの類似の請求をまとめて処理する傾向を示唆しています。


4.4 事例4:Huckabee v. Bloomberg(旧称 Huckabee v. Meta)

概要: マイク・ハッカビー氏らが、Bloomberg社に対し、LLM(BloombergGPT)のトレーニングにBooks3データセットを使用したことが直接的な著作権侵害に当たると主張する集団訴訟を提起しました 3。

争点: 特定のデータセット(Books3)のAIトレーニングへの利用が著作権侵害に当たるかが争点です。この訴訟はテキストに焦点を当てていますが、BloombergGPTが画像を生成する場合や、データセットに画像が含まれていた場合、画像データに関する訴訟にも影響を与える可能性があります。

結果(判明している場合): 被告による訴訟却下申し立てに対する弁論が完了しており、近く判決が出される可能性があります 3。

考察: Books3のような特定のデータセットに焦点を当てることで、AI開発者が使用するトレーニングデータの情報源を理解することの重要性が強調されています。訴訟却下申し立ての結果は、裁判所がこのような主張の実現可能性について初期の見解を示すものとなるでしょう。


4.5 事例5:Advance Local Media v. Cohere

概要: Conde NastやThe Atlanticなどのニュース出版社が、Cohere社に対し、同社のAIシステムの作成と運用に基づいて直接的および間接的な著作権侵害で提訴しました 3。

争点: AI開発企業(Cohere社)によるニュースコンテンツのAIシステムトレーニングへの利用が著作権侵害に当たるか、特にフェアユースの第4要素(市場への影響)に関する判例に大きく貢献することが期待されています。

結果(判明している場合): この訴訟は最近(2025年初頭)提起されたばかりで、初期段階にあります 3。

考察: この訴訟は、ニューヨーク・タイムズ訴訟と同様に、ニュース機関がAIトレーニングへのコンテンツ利用とその潜在的なライセンス市場への影響について懸念していることを示しています。「フェアユース」の判例への貢献が期待されていることは、これらの継続的な法的闘争の法的意義を強調しています。



5. 動画生成AIの学習データに関する訴訟事例


5.1 事例1:Tremblay v. OpenAI, Inc.(トレーニングデータ開示に焦点)

概要: 主にテキストに関する訴訟ですが、この訴訟におけるトレーニングデータ開示命令は、動画機能を持つモデルや、動画のテキスト記述でトレーニングされたモデルを含む、さまざまな種類の生成AIのトレーニングに使用されるデータを理解する上で広範な影響を与えます 5。

争点: AI著作権侵害訴訟における証拠開示の範囲、特にトレーニングデータ開示に関する問題、原告側の証拠の必要性とAI開発者側の専有情報およびデータセキュリティ保護の懸念のバランスが争点となっています。

結果(判明している場合): 裁判所は、データセキュリティと機密保持の規定を設けた上で、OpenAI社に対し、「English Colang」データセットの完全な開示を命じました。この決定は、AIモデルが使用するトレーニングデータを理解しようとする原告にとって重要な勝利です 5。

考察: Tremblay訴訟の開示命令は、テキスト中心の訴訟ではあるものの、動画を含む他の生成AI訴訟におけるトレーニングデータへのアクセスに関する先例となる可能性があります。これにより、著作権者は侵害を証明するための重要な証拠を入手できる可能性があります。裁判所が利益のバランスを取っていることは、原告側の情報ニーズと被告側の正当な懸念の両方を認識していることを示しています。


5.2 広範な影響

 動画と画像の生成AI訴訟の間には、特にトレーニングに使用されるビジュアルコンテンツの著作権侵害に関して、法的議論と課題に類似点がある可能性が高いです。

技術が成熟し、より広く使用されるようになるにつれて、動画生成AIモデルを具体的に対象とした将来の訴訟の可能性が考えられます。

考察: テキストおよび画像生成AI訴訟で確立された法的原則は、動画生成AI訴訟にも適用される可能性が高いです。提供された資料に著名な動画固有の訴訟が比較的少ないことは、この特定の技術がまだ初期段階にあるか、現在の訴訟がより確立された形態の生成AIに焦点を当てていることを反映している可能性があります。しかし、動画生成AIの進化に伴い、著作権を巡る法的紛争も増加することが予想されます。



6. 音声生成AIの学習データに関する訴訟事例


6.1 事例1:UMG Recordings v. Suno

概要: 主要レコード会社を代表するRIAA(アメリカレコード協会)は、テキストプロンプトに基づいてデジタル音楽ファイルを作成する生成AIサービスであるSuno社に対し、著作権で保護されたサウンドレコーディングのトレーニングに基づいた大規模な著作権侵害で提訴しました 2。

争点: 著作権で保護された音楽録音のAIトレーニングへの利用が著作権侵害に当たるか、サウンドレコーディングに関連するAIサービスに対する最初の主要な訴訟、Suno社の「フェアユース」の抗弁などが争点となっています。

結果(判明している場合): この訴訟は、証拠開示の初期段階にあります。Suno社は「フェアユース」を主張しています。Suno社のAIモデルとトレーニングデータの証拠開示の範囲については、現在も紛争が続いています 2。

考察: この訴訟は、法的闘争の場をオーディオ領域にまで広げる重要なものです。レコード会社の積極的な姿勢は、音楽業界が著作権で保護された作品のAIトレーニングにおける無許諾利用から保護しようとする決意を示しています。「フェアユース」の抗弁は、この文脈で厳しく精査されるでしょう。


6.2 事例2:UMG Recordings v. Uncharted Labs (d/b/a Udio)

概要: Suno訴訟と同様に、UMGを含む主要レコード会社は、別のAI生成音楽会社であるUdio社に対し、著作権で保護された音楽録音を大量にAIサービスのトレーニングに使用したとして著作権侵害で提訴しました 2。

争点: 著作権で保護された音楽のAIトレーニングへの利用が著作権侵害に当たるか、Udio社がトレーニングデータの一部として著作権で保護された楽曲を使用したことを認めながら「フェアユース」を主張している点、これらのAIモデルが商業音楽市場を損なうという主張などが争点となっています。

結果(判明している場合): この訴訟は現在も係争中です。Udio社も「フェアユース」を主張しています 7。

考察: Suno社とUdio社に対する同時訴訟は、音楽業界によるAI音楽ジェネレーターのトレーニングへの著作権で保護された音楽の利用の合法性に異議を唱える協調的な取り組みを示しています。レコード会社による市場の混乱に関する主張は、「フェアユース」の抗弁に対する彼らの反対の重要な要素です。


6.3 事例3:Vacker v. Eleven Labs

概要: 2人の声優、2人の作家、および1つの出版社が、テキスト読み上げソフトウェア会社であるEleven Labs社に対し、声優のオーディオブックのナレーションの録音を、同意や補償なしにAI音声クローン(「Adam」と「Bella」)を作成するために使用したとして提訴しました。プライバシーの侵害、肖像権の不正利用、およびDMCA違反が主張されています 4。

争点: 声と肖像の不正利用、音声クローニングに使用されたオーディオブック録音の著作権侵害、トレーニングに著作権で保護された作品を使用したことによるDMCAの不正競争防止規定違反などが争点となっています。

結果(判明している場合): この訴訟はデラウェア州の連邦地方裁判所に提訴され、初期段階にあります。Eleven Labs社は「Bella」の音声を削除したと報告されています 31。

考察: この訴訟は、音声クローニングと、自身の声に対する声優の権利という新たな問題を提起しています。トレーニングに使用された基礎となる作品の従来の著作権侵害を超えて、プライバシーとパブリシティ権に関する懸念を引き起こしています。DMCAの主張は、音声クローニングをトレーニングに使用された著作権で保護されたオーディオブックに結び付けています。



7. 訴訟事例の比較分析

 以下の表は、上記で議論された主要な訴訟事例の概要を示しています。


この表から、生成AIのタイプを問わず、著作物の無許諾AIトレーニングに対する著作権侵害の主張が訴訟の主要な争点となっていることがわかります。また、被告であるAI開発企業は、主にフェアユースを抗弁としていますが、その成否はケースバイケースで判断されている状況です。



8. 傾向と共通の法的課題


8.1 「フェアユース」の原則

 米国著作権法における「フェアユース」の原則(および他法域における類似の概念)は、AI開発者側の主要な防御手段となっています。フェアユースの判断は、(1)利用の目的と性質(商業的か非営利的か、変革的か)、(2)著作物の性質、(3)使用された部分の量と質、(4)著作物の潜在的市場価値への影響、という4つの要素に基づいて行われます。AIトレーニングの文脈では、著作権者は、AIによる利用は商業的であり、元の著作物の市場を損なうと主張する一方、AI開発者は、トレーニングは元の著作物を変革し、新たな価値を生み出す非競合的な利用であると主張しています。トムソン・ロイター対Ross Intelligence訴訟では、裁判所はRoss Intelligence社の利用が商業的であり、直接競合するツールを作成するためのものであったため、フェアユースを認めませんでした 17。しかし、生成AIの場合は、出力が元のトレーニングデータと直接的に類似しないことが多いため、より複雑な判断が求められます。


8.2 AI生成物の「実質的類似性」の概念

 従来の著作権侵害の法的基準では、元の著作物と主張される侵害著作物との間に「実質的類似性」が存在することが必要とされます。しかし、生成AIの出力は、トレーニングデータの影響を受けているとはいえ、多くの場合、完全に新しい創作物です。このため、AIの出力が元のトレーニングデータとどの程度類似していれば著作権侵害となるのかという問題は、非常に複雑です。OpenAI ChatGPT訴訟では、裁判所は当初、ChatGPTの出力が原告の著作物と「実質的に類似していない」として、著作権侵害の主張の大部分を棄却しました 1。この判決は、トレーニングデータと生成された出力との間の法的区別を示唆しています。


8.3 著作権管理情報(CMI)とDMCAの影響

 著作権管理情報(CMI)は、著作物の権利者、利用条件などの情報であり、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)は、CMIの削除や改変、CMIなしでの著作物の配布などを禁じています。アンダーセン対Stability AI訴訟やVacker対Eleven Labs訴訟では、トレーニングプロセスにおけるCMIの削除や、著作権保護を回避する可能性のあるAIのトレーニングへの著作物の利用などがDMCA違反として主張されています 24。DMCAは、著作権侵害だけでなく、著作権保護のための技術的措置や情報の管理にも関わるため、AIと著作権の問題をさらに複雑にしています。


8.4 データスクレイピングとウェブサイト利用規約

 AIモデルのトレーニングに必要な膨大なデータセットは、多くの場合、インターネット上のウェブサイトからデータを収集する「スクレイピング」という手法を用いて取得されます。このスクレイピング行為は、著作権で保護されたコンテンツの収集という点で法的問題を引き起こす可能性があります。また、ウェブサイトの利用規約でスクレイピングが禁止されている場合、規約違反や不法行為(業務妨害など)に該当する可能性もあります。事例5の「著作権侵害によるAIトレーニング」では、画像エージェンシーのウェブサイトに記載された、機械可読な利用制限に関する免責事項が、テキストおよびデータマイニングの例外規定の適用に影響を与えたことが示されています 34。


8.5 AIの文脈における「複製」の概念の進化

 AIモデルを著作権で保護された素材でトレーニングする行為が、著作権法上の「複製」に該当するかどうかは、現在議論の的となっています。トレーニングは、元の作品の圧縮されたバージョンや変換されたバージョンをAIモデル内に作成する行為であると主張されることがあります。トムソン・ロイター対Ross Intelligence訴訟では、出力がヘッドノートの直接的なコピーではなかったにもかかわらず、裁判所は侵害を認めました 2。これは、AIトレーニングのプロセス自体が著作権侵害とみなされる可能性を示唆しています。


8.6 法的アプローチの国際的な差異

 著作権法やフェアユース(またはフェアディーリング)のような概念の解釈は、国や地域によって大きく異なる可能性があります。ゲッティイメージズ対Stability AI訴訟が米国と英国の両方で進行していることは、異なる法的枠組みの下で同様の事実が審理される可能性を示しています 2。AI開発はグローバルに行われているため、これらの法的問題は単一の法域に限定されません。



9. 法的原則と学術的視点の考察


9.1 著作権法の関連条項の再検討

 著作権法の核心となる原則は、著作権者に著作物の複製、翻案、配布などの独占的権利を付与することです。これらの権利には、フェアユース(米国の場合)や他の法域における類似の規定といった制限と例外が存在します。生成AIの学習データに関する訴訟では、これらの独占的権利と制限規定の解釈と適用が重要なポイントとなります。特に、AIトレーニングが「複製」や「翻案」に該当するのか、またフェアユースの4要素をどのように解釈するかが鍵となります。


9.2 AIと著作権に関する学術論文と法的解説の分析

 この分野の法的課題については、多くの学術論文や法的解説が存在します。これらの文献は、既存の著作権法をAIトレーニングデータに適用することの難しさや、新たな法的枠組みの必要性について様々な視点から議論しています。例えば、AIトレーニングをフェアユースとして認めるべきとする意見や、著作権者への新たな補償メカニズムを提案する意見などがあります。これらの学術的な議論を理解することは、訴訟事例の背景にある法的原則や議論を深く理解する上で不可欠です。


9.3 これらの訴訟がAI開発の将来に与える潜在的な影響の考察

 これらの訴訟の結果は、AIモデルのトレーニング方法やトレーニングデータの入手可能性に大きな影響を与える可能性があります。著作権侵害が広く認められるようになれば、AI開発者は著作物の利用に関してより慎重な姿勢を求められ、ライセンス契約の締結や、著作権フリーのデータの利用を検討する必要が生じるでしょう。これは、AI技術の革新や競争、そしてクリエイターの権利とのバランスに影響を与える可能性があります。逆に、フェアユースが広く認められるようになれば、AI開発はより自由に進む可能性がありますが、著作権者への適切な対価が支払われないという懸念も残ります。


10. 結論

 生成AIの学習データを巡る法的状況は、現在非常に流動的であり、多くの訴訟が進行中です。これらの訴訟は、著作権保護とAI開発のためのデータ利用という、根本的に対立する二つの利益のバランスをどのように取るかという重要な課題を提起しています。本稿で分析した事例からは、フェアユースの解釈、AI生成物の類似性の判断、トレーニングデータ開示の範囲など、多くの法的課題が明らかになりました。今後の訴訟の判決や、場合によっては立法的な措置によって、これらの課題に対するより明確な法的指針が示されることが期待されます。AI技術の発展と著作権法の調和を図るためには、引き続きこの分野の動向を注視していく必要があります。



引用文献

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2) AI Infringement Case Updates: February 24, 2025: McKool Smith, 3月 23, 2025にアクセス、 https://www.mckoolsmith.com/newsroom-ailitigation-11


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13) New York Times vs. OpenAI: Fair Use Fight with Billions at Stake | Darrow Everett LLP, 3月 23, 2025にアクセス、 https://darroweverett.com/new-york-times-vs-open-ai-fair-use-legal-analysis/


14) (Un)fair Use?: Understanding the New York Times's Lawsuit Against Microsoft and OpenAI, 3月 23, 2025にアクセス、 https://www.vanderbilt.edu/jetlaw/2024/01/08/unfair-use-understanding-the-new-york-timess-lawsuit-against-microsoft-and-openai/


15) Q&A: New York Times Co. v. Microsoft and the future of AI and copyright | Secondary Sources - Westlaw Today, 3月 23, 2025にアクセス、 https://today.westlaw.com/Document/Idff980c60c9711ef8921fbef1a541940/View/FullText.html?transitionType=Default&contextData=(sc.Default)


16) The N.Y. Times Co. v. Microsoft Corp., 23-cv-11195 (SHS) (OTW) | Casetext Search + Citator, 3月 23, 2025にアクセス、 https://casetext.com/case/the-ny-times-co-v-microsoft-corp-3


17) Federal Court Holds that Creator of AI Tool Infringed Copyright in ..., 3月 23, 2025にアクセス、 https://quicktakes.loeb.com/post/102k035/federal-court-holds-that-creator-of-ai-tool-infringed-copyright-in-training-data


18) An Early Win for Copyright Owners in AI Cases as Court Rejects Fair Use Defense, 3月 23, 2025にアクセス、 https://www.debevoise.com/insights/publications/2025/02/an-early-win-for-copyright-owners-in-ai-cases-as


19) Court Reverses Itself in AI Training Data Case | Insights - Skadden, 3月 23, 2025にアクセス、 https://www.skadden.com/insights/publications/2025/02/court-reverses-itself-in-ai-training-data-case


20) Federal Court Sides with Plaintiff in the First Major AI Copyright Decision of 2025, 3月 23, 2025にアクセス、 https://www.jw.com/news/insights-federal-court-ai-copyright-decision/


21) Andersen v. Stability AI | BakerHostetler, 3月 23, 2025にアクセス、 https://www.bakerlaw.com/andersen-v-stability-ai/


22) Andersen v. Stability AI: The Landmark Case Unpacking the Copyright Risks of AI Image Generators - NYU Journal of Intellectual Property & Entertainment Law, 3月 23, 2025にアクセス、 https://jipel.law.nyu.edu/andersen-v-stability-ai-the-landmark-case-unpacking-the-copyright-risks-of-ai-image-generators/


23) Andersen v. Stability AI — Mesh IP Law - Intellectual Property Attorney, 3月 23, 2025にアクセス、 https://www.meshiplaw.com/litigation-tracker/andersen-v-stability-ai


24) Andersen v. Stability AI Ltd. | Loeb & Loeb LLP, 3月 23, 2025にアクセス、 https://www.loeb.com/en/insights/publications/2024/08/andersen-v-stability


25) Andersen v. Stability AI Ltd. | Loeb & Loeb LLP, 3月 23, 2025にアクセス、 https://www.loeb.com/en/insights/publications/2023/11/andersen-v-stability-ai-ltd


26) Getty v Stability AI: A 'tantalising glance' of what's to come for AI firms and creators, 3月 23, 2025にアクセス、 https://www.charlesrussellspeechlys.com/en/insights/expert-insights/financial-services/2025/getty-v-stability-ai-a-tantalising-glance-of-whats-to-come-for-ai-firms-and-creators/


27) Getty Images and others v Stability AI - Judiciary.uk, 3月 23, 2025にアクセス、 https://www.judiciary.uk/wp-content/uploads/2025/01/Getty-Images-and-others-v-Stability-AI-14.01.25.pdf


28) Navigating representative actions: takeaways from Getty Images v Stability AI, 3月 23, 2025にアクセス、 https://www.herbertsmithfreehills.com/notes/ip/2025-01/navigating-representative-actions-takeaways-from-getty-images-v-stability-ai


29) Generative AI in the courts - Getty Images v Stability AI, 3月 23, 2025にアクセス、 https://www.penningtonslaw.com/news-publications/latest-news/2024/generative-ai-in-the-courts-getty-images-v-stability-ai


30) Getty Images Statement, 3月 23, 2025にアクセス、 https://newsroom.gettyimages.com/en/getty-images/getty-images-statement


31) A Look Into the ElevenLabs Lawsuit - The Voice Realm, 3月 23, 2025にアクセス、 https://www.thevoicerealm.com/blog/a-look-into-the-elevenlabs-lawsuit/


32) Vacker et al v. ElevenLabs, Inc. - Law360, 3月 23, 2025にアクセス、 https://www.law360.com/cases/66d09d62e010cd09bb6de75a


33) Vacker et al v. ElevenLabs, Inc. - Law360 UK, 3月 23, 2025にアクセス、 https://www.law360.co.uk/cases/66d09d62e010cd09bb6de75a?article_sidebar=1


34) Copyright infringement by AI training - Dentons, 3月 23, 2025にアクセス、 https://www.dentons.com/en/insights/alerts/2024/october/2/copyright-infringement-through-ai-training



あとがき

 この記事は Deep Research に編集してもらいました。指示の内容は、AIタイプ別に訴訟事例を収集し、訴訟の概要、争点、裁判結果(判明している場合)を整理することです。調査の目的と要点を指示するだけでこちらの意図をくみ取ってくれる優秀な助手といえます。


 
 
 

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